寒河江市が成果連動型(PFS)の結婚支援事業を実施
私も議員時代にPFSの導入を提案してきていたため、今もPFSに関する事例はチェックしており、令和5年度(2023年)から実施している事業ですが、気になる取り組みがあったのでまとめておきます。
令和7年度(2025年)までなのであと半年くらいで実際の成果が明らかになってくると思われます。
山形県寒河江市は、少子高齢化および人口減少という行政課題に対し、成果連動型民間委託契約(PFS方式)を活用した成婚促進業務委託事業を実施しています。この取り組みは、全国の自治体で初めてのPFS方式による成婚促進事業とされています。このブログではこの事業の背景、PFS方式の概要、具体的な取り組み、および期待される効果、今後の課題についてまとめています。
情報源はコチラです。
地方公共団体による成果連動型民間委託契約方式に係る事業案件形成支援業務 報告書
事業実施の背景:少子高齢化と人口減少への対応
寒河江市では、近年、少子高齢化と人口減少が重要な行政課題となっています。令和3年の出生数は286人で、10年前の平成23年から約20%減少しています。また、65歳以上の人口は平成28年に初めて3割を超え、令和3年には32.4%に達しています。自然動態においても平成17年以降「自然減」の状態が続き、令和3年にはマイナス264人となり、これは人口減少拡大の最大の要因とされています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2045年には2015年と比較して人口が約30%減少する見込みです。
これらの状況から、地域活力の低下を防ぐためにも早急な対策が必要とされており、市の総合計画「新第6次寒河江市振興計画」では、少子化対策が重要課題として位置付けられています。出生数減少の主な要因として、未婚化・晩婚化による婚姻率の低下が指摘されており、寒河江市の婚姻率(人口千対3.5、令和2年)は国の水準(4.3、同年対比)を大きく下回っています。このため、婚姻率の向上が少子化対策の重要なポイントとされており、これまでの結婚支援施策を一層強化し、その効果検証を適切に行うことが求められています。本事業で解決すべき行政課題は「少子化抑制に向けた結婚支援による婚姻率の向上」と設定されています。
PFS方式の概要と導入目的
本事業で寒河江市が採用しているのは、成果連動型民間委託契約(PFS:Payment for Success)方式です。この方式は、事業の成果指標を設定し、その達成度合いに応じて委託費を増減させるという特徴を持つ成果連動型の取り組みです。民間事業者が持つ専門的なノウハウを最大限に活用し、成果に対するインセンティブを高めることで、婚活および結婚支援の拡充・強化を図ることを目的としています。
PFS方式は、内閣府が推進する「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」に基づき、地方公共団体における普及促進のため支援が行われています。
委託事業の内容と実施体制
本事業の受託者は、山形市に拠点を置く結婚相談所「ピュアナブライズ」です。委託事業は2025年度まで実施される予定です。具体的な業務内容は以下の通りです。
事業1:婚活支援事業
- 紹介、仲介、相談対応など、成婚に至るまでの支援全般を実施します。
- 最終成果指標のデータは、婚姻届受理証明書や住民票の写しなど、信頼性が確保された形で事業者が自ら収集・報告することが求められます。
事業2:結婚に係る啓発事業
- 婚活セミナーやマッチングイベントなど、結婚に関する啓発イベントを年間12回程度、婚活セミナーを年間6回程度実施します。
イベントは原則として寒河江市内で開催され、募集の際には市民・在勤者枠が設けられます。 - 情報提供の一環として、寒河江市の既存の婚活支援事業(婚活コーディネーター事業、結婚新生活支援事業)や生活環境の紹介も行われます。
- 中間成果指標のデータは、参加者名簿の提出など、信頼性が確保された形で事業者が自ら収集・報告することが求められます。
- 事業の実施体制は、市を委託者、サービス提供事業者を受託者とする体制を原則とし、中間支援団体や外部評価機関の参画は想定されていません。
成果指標と報酬体系
少子化抑制に向けた成婚数の増加を最終目標とし、これに連動する形で成果指標と報酬体系が設定されています。
目標設定
最終目標:「少子化抑制に向けた成婚数の増加」
- 指標:婚姻後寒河江市内に居住する、男女ともに婚姻届出時点で39歳以下の夫婦世帯の増加(年間30組が上限値)。39歳以下を対象とするのは、母親の年齢別出生率が30~34歳をピークに25~39歳が顕著に高いためであり、市の既存事業も39歳以下を対象としているためです。
中間目標:「結婚に具体的に取り組む人の増加」
- 指標:婚活サービス登録者数(年間30人が上限値)
初期目標:「結婚への意識・意欲の向上」
- 指標:啓発イベント参加者数(定員300名規模の実施が要件)
報酬体系
固定年間委託料
約74万円。これは初期目標に対応した最低支払額として、定員300名規模の啓発事業を適正に実施した場合に支払われる経費に相当します。
成果連動分
- 啓発事業参加者:1人あたり5,000円(最大300人分で150万円)。
- 結婚仲介サービス登録者:1人あたり3万円(最大30人分で90万円)。
- 成婚:1組目4万1,000円、2組目4万3,000円、3組目4万5,000円と2,000円ずつ増額し、最大30組で210万円。成婚の対象は、婚姻後寒河江市内に居住し、男女ともに婚姻届出時点で39歳以下の夫婦です。
事業全体での支払総額の上限は680万円と設定されており、これは事業がもたらす経済効果と比較しても妥当性が確保されていると記載されております。
事業がもたらす効果と便益
本事業により、寒河江市は成婚数の増加に加えて、以下のような多様な社会的便益を期待しています。
• 出生数の増加
成婚30組で年間約43.8人の出生が期待されています。
• 経済活動の活性化:
妊娠・出産に伴う費用として約992.6万円の経済活動が試算されています。
0歳から15歳までの子ども関連消費として、約5億3千万円以上(消費7項目子育て費用)の経済活動が期待されます。
児童手当による消費促進効果も期待されており、15歳までの総計で約106万円の貯蓄等以外の活用が見込まれています。
• 市税収の増加
夫婦のいずれかが市外からの転入者である場合、5年間の定住で約1,724万円の税収増が見込まれます(市外転出を考慮した試算)。
• 地域社会の活性化
子どもや結婚に伴う住民の増加は、将来的な地域の担い手不足の解消や、地域コミュニティの活性化にも寄与するとされています。
事業実施における課題と今後の展望
PFS方式による成婚促進事業は全国初の試みであり、客観的な先行事例や参考資料が極めて限られているという課題があります。また、成婚支援事業がどの程度の成婚数の増加につながるかは、啓発事業の集客しやすさ、地域の意欲の高さなど、地域特性による差が大きいとされていますが、地方都市では実績データの確保が困難な場合が多いと指摘されています。
このため、寒河江市では以下の課題・留意点に継続的に取り組む予定です。
目標設定の妥当性の継続的な検討
事業を通じて得られる実績データを含め、継続的に対象地域での実績データを蓄積し、分析することで、目標設定の妥当性を検討し、必要に応じた見直しにより精度向上を図ることが求められます。
最終成果指標の上限値の継続的な検討
現状の全国と寒河江市の婚姻率を基準に設定された最終成果指標の上限値は、今後の状況変化に応じて見直し、改めて妥当な水準を設定することが必要です。
事業の最終的な目的への寄与度の確認
本事業の最終目的は少子化の抑制ですが、成婚から出生に至るまでには時間差があるため、今後は成婚した世帯の出生数を追跡的にモニタリングし、少子化抑制への寄与度を確認することが重要です。
寒河江市のPFS方式を活用した婚活支援事業は、少子高齢化という広範な課題に対し、新しいアプローチで解決を図る先進的な事例です。注目ですね。
また、これは新しいチャレンジなので、仮にうまくいかなかったとしても直ちに「失敗じゃないか」ではなく、「次にどう活かせるか」を考えられるといいですよね。
議会ではどんな議論があったのか気になるところです。
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