広がりを見せる「朝の預かり」事業(小1の壁解消)
以前のブログ記事で、小学校入学を機に多くの家庭が直面する「小1の壁」と、その背景にある時間的な課題について触れさせていただきました。
保育所に比べて小学校は始業時間が遅いため、保護者の働き方への影響や、子育てと仕事の両立の難しさが生じるというお話でした。
そして、この「小1の壁」を乗り越えるための策として、神奈川県大磯町で行われている「朝の子どもの居場所づくり事業」をご紹介いたしました。これは小学校の始業前に学校施設などを利用して、子どもたちが安全・安心に過ごせる場所を提供する取り組みです。大磯町では以前からこうした事業を実施されており、NHKで取り上げられたこともあるそうです。
さて、この朝の預かり、あるいは朝の居場所づくりといった取り組みが、他の自治体にも広がりを見せています。今回は、特に新しくこの「小1の壁」対策として朝の預かり事業を始めた自治体(私がネットで確認できた)の事例をいくつかご紹介したいと思います。
東京都豊島区:試行から全校本格実施へ
豊島区でも、「小1の壁」が全国的な課題であると認識し、子どもの朝の居場所づくりにチャレンジしています。当初は、令和7年1月8日から3月31日まで、駒込小学校と清和小学校の2校で試行実施を開始しました。
https://www.city.toshima.lg.jp/438/2411131202.html
そしてこの度、試行実施を経て、令和7年4月10日(入学式翌日)より、区立小学校全校で本格実施されています!
豊島区の事業は「おはようクラス(朝の預かり)」と呼ばれています。
- 事業内容: 平日(土日祝日を除く)の午前7時45分から登校時間まで、学校用務員の方が子どもスキップまたは指定の教室で見守ります。
- 対象者: 区立小学校に通う予定の新小学1年生で、学童クラブ登録者かつ長期休暇中の早朝利用者です。対象児童に兄姉(同様に学童クラブ登録者かつ長期休暇中の早朝利用者)がいる場合も一緒に利用可能です。
- 実施期間: 通年で実施されます。
- 利用条件: 必ず保護者が預かり場所まで付き添う必要があります。
- 費用: 学童クラブ利用料以外に追加料金はかかりません。
- 申込方法: 各小学校の新入学者説明会で配布される案内に沿って、電子申請フォームより申し込みます。
帰宅時の見送りも実施
豊島区の取り組みの特徴は、朝だけでなく「おかえりサポート(帰宅時の見送り)」も行っている点です。
- 事業内容: 平日(土日祝日を除く)の午後4時から午後6時の間、児童を方向別に分け、シルバー人材センター会員が見守り員として安全な地点まで見送ります。
- 対象者: 主に学童クラブ登録者ですが、希望すれば子どもスキップ(一般利用)の児童も利用可能です。
- 実施期間: 4月、10月~2月の合計6か月間実施されます。
- 費用: こちらも追加料金はかかりません。
豊島区は、試行から一気に全校での本格実施へと踏み出した、先進的な事例と言えるでしょう。
埼玉県志木市:県内初のモデル事業を開始
埼玉県志木市でも、小学校への登校時間が保護者の出勤時間より遅いことで生じる「朝の小学1年生の壁」解消のため、「朝のこどもの居場所づくりモデル事業」を開始すると発表しました。
https://www.city.shiki.lg.jp/kosodate/shikikko/30128.html
この事業は、埼玉県が新年度から始めるモデル事業の補助金を活用したもので、埼玉県内の市町村が学校側で居場所を確保する事業を実施するのは初めてとのことです!
- 事業内容: 小学生を対象に、午前7時から午前8時まで学校側が預かります。
- 実施場所: 志木小学校をモデル校とし、小学校に隣接する生涯学習施設「いろは遊学館」で過ごします。
- 定員: 30人です。
- 見守り: 業務委託する支援要員2人が児童を見守ります。
- 費用: 無料です。
- 利用条件: 保護者が児童を学校まで送ることが条件となります。
志木市には、保護者から始業前の居場所について問い合わせがあったそうで、香川武文市長はモデル事業実施後、他の小学校も含めて必要性の有無を検討する意向を示しています。
東京都品川区:試行的に3校で先行実施
東京都品川区でも、「小1の壁」に対応するため、共働きなどで保護者が子どもより早く出勤する必要がある家庭向けに、区立小学校の始業前に学校内で子どもたちが安全・安心に過ごせる居場所を設置する事業を試行実施しています。
https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/kodomo/hpg000006093.html
- 実施校: まずは源氏前小学校、戸越小学校、豊葉の杜学園の3校で先行実施しています。
- 利用可能日時: 平日の午前7時30分から、学校ごとに定められた教室への入室可能時刻までです。この時間内であれば、家庭の都合に合わせた時刻に登校できます。
- 費用: 無料です。利用中の事故に備え、保険にも加入しており、保険料は区が負担しています。
- 見守り: 児童が過ごす場所では、委託業者の職員である見守り員が児童を見守ります。
- 活動内容: 見守り員に学年と名前を伝えて、読書や自習をして静かに過ごします。ボール遊びやかけっこなどの運動や、学習指導は行いません。
- 申込方法: 利用には、電子申請での新規登録と事前申請が必要です。
- 実施しない日程: 土日祝日、長期休業中、開校記念日、振替休日、入学式・卒業式当日(義務教育学校は前日も含む)、学校休校日、学級閉鎖等の期間は実施しません。
- 留意点: この事業は学校施設を利用しており、教員の働き方改革のため学校への直接の問い合わせは控えるよう求めています。
品川区も、まずは一部の学校で試行的に開始し、ニーズや課題を確認しながら今後の展開を検討していく考えのようです。
豊中市の事例:全校導入
大阪府豊中市でも、「小1の壁」を解消し、多様な働き方に対応するため、小学校の始業前の子どもの居場所づくりに取り組んでいます。市内の全小学校・義務教育学校を対象に実施されています。
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kosodate/kosodate_no1/sho1_kabe/am7_koumonkaihou.html
- 事業内容: 小学校の校門を朝7時から開放し、校門前に警備員1名、見守り場所に2名の見守り員を配置して児童を見守ります。午前7時から登校時間(午前8時)まで、通学する小学校及び義務教育学校の体育館等で児童が自由に過ごせる場所を提供します。見守り員は、児童の見守り及び簡単なけがの対応を行います。見守り場所では、タブレットやトランプなどにより自由に過ごすことができます。
- 対象者: 市立小学校・義務教育学校(前期課程)に通う全校の児童。特に、小学1年生をはじめ、就労等の諸事情により当事業の利用を希望するご家庭の児童が対象です(学年は問いません)。
- 実施期間/日時: 平日(月曜日から金曜日)の午前7時から午前8時まで実施されます。この時間帯内であれば、各自のご都合に合わせて登校できます。令和6年(2024年)4月8日(月曜)から開始されました。さらに、令和7年度からは春休み・夏休み・冬休み期間中も実施される予定です(令和7年4月1日(火曜)から)。三季休業期間中の利用は放課後こどもクラブ加入児童を想定しており、午前8時開始の放課後こどもクラブに引き継がれます。土曜日、日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、年末年始(12月29日から翌年1月3日まで)、創立記念日、学校行事の代休日、入学式及び卒業式の当日とその前日は実施されません。
- 費用: 特に記載はありませんが、費用は不要かと思います。
- 利用条件: 児童の安全確保の観点から、見守り場所入り口まで保護者の付き添いをお願いしています。ただし、令和7年4月1日(火曜)より、おおむね午前7時30分以降に自宅を出る場合は付き添いは不要になります。この場合でも新1年生は1週間程度は付き添いが推奨されています。7時30分以降であっても可能な限り児童の付き添いにご配慮ください。付き添いの際には、近隣の迷惑になりますので車でのお送りはご遠慮ください。食べ物は持ち込めません。体調が悪い日のご利用はお控えください。利用児童が見守り員の注意に従わない、ルールが守れない、迷惑行為などがあった場合は、ご利用をお断りする場合があります。児童が在籍する学級等での学級閉鎖等の期間中は、当該学級等の児童は本事業を利用できません。午前6時30分時点で豊中市もしくは豊中市を含む地域に暴風警報、大雨警報(浸水害)、大雨警報(土砂災害・浸水害)、洪水警報、暴風特別警報、大雨特別警報のいずれかが発令された場合は中止します。
- 申込方法: 事業を利用するには、事前申込みが必要です。ウェブサイト上の登録リンクから手続きを行うことができます。登録された内容は、お子さまのけがなどの際の緊急連絡等に使用されます。令和6年度利用者も改めて令和7年度の利用登録をお願いします。毎日の登校時には、見守り員に児童の名前・学年を伝えてください。欠席の際の連絡は不要です。
豊中市も、小学校の校門開門時間を早め、見守り体制を整えることで、こども園が始まるのと同じ時間からの預かりニーズに対応し、仕事と子育てが両立できるよう支援しています。事業実施中に起きた事故に備え、市において保険に加入しているとのことです。
横浜市の事例:R6年2校、R7年10校でモデル実施
神奈川県横浜市でも、「小1の壁」を解消し、保護者の子育てと仕事の両立を支援するため、小学校の始業前の子どもの居場所づくりに取り組んでいます。子育てに「実感できるゆとり」を生み出し、親子の日常的な笑顔をつくる施策パッケージ「おやこ More Smile Package」の一環として実施されています。
https://www.city.yokohama.lg.jp/kosodate-kyoiku/hokago/asa2024.html
- 事業内容: 小学校の始業前の朝の時間に、学校施設内を利用して、子どもたちが安全・安心に過ごすことができる居場所を設ける事業です。保護者の付き添いのもと登校した児童は、小学校内の活動場所で見守り員に見守られながら過ごします。見守り員が活動場所の環境を整え、児童への声掛けや簡単なけがの応急処置などを行います。活動場所では、読書をしたり、折り紙をしたりするなどして静かに過ごすことができます(ボール遊びやかけっこなど運動はできません)。学校がある日は昇降口が開く時間になったら教室に向かいます。長期休業日は放課後キッズクラブ利用児童は午前8時にキッズクラブに引き継がれます。
- 対象者: モデル実施校に在籍する児童。令和7年度は合計10校でモデル実施。(令和6年は2校でモデル実施)
- 実施期間/日時: 平日(月曜日から金曜日)の午前7時から午前8時頃まで実施されます。令和6年(2024年)7月より開始しており、令和7年度は実施校を拡大します。夏休み等の長期休業日も実施します。土曜日、日曜日、祝日、年末年始、長期休業日を除く学校休業日は実施しません。その他、学校行事等により中止になる場合があります。
- 費用: 利用料は無料です。ただし、事業実施中に起きた事故等に備え、利用に当たっては保険加入が必須となり、別途保険料がかかります。保険料は年間800円に手数料が加算されます。保険内容は傷害保険・賠償責任保険です。
- 利用条件: 児童の安全確保の観点から、児童の登校の際には必ず保護者の付き添いが必要です。保護者の付き添いがない場合は、学校内に入れません。校門で見守り員に登録証を提示する必要があります。付き添いの際には、近隣の迷惑になりますので車での送りはご遠慮ください。活動場所では朝食等をとることはできません。体調が悪い日の利用に関する直接的な記載はありませんが、放課後キッズクラブ等のような保育や預かりの場ではない点を理解して利用する必要があります。利用児童が見守り員の注意に従わない、ルールが守れない、迷惑行為などがあった場合は、ご利用をお断りする場合があります。児童が在籍する学級等での学級閉鎖等の期間中は、当該学級等の児童は本事業を利用できません。午前6時の時点で横浜市内に「暴風警報」、「大雪警報」、「暴風雪警報」、「降灰予報」、「特別警報」または「避難指示」が発表継続中の場合は中止します。台風・大雪等の荒天が予測されるときも中止となる場合があります。中止の際は朝6時30分までに「すぐーる」で保護者へ連絡します。
- 申込方法: 事業を利用するには、事前登録が必要です。利用を希望する保護者は、事前に事業者(シルバー人材センター)へメールにより登録を行い、保険料を振り込みます。利用希望月の前月15日までが登録期間となります。保険料振込用の専用振込取扱票は、モデル実施校の活動場所や区役所のこども家庭支援課などで受け取れます。WEBでの振り込みも可能です。登録後はモデル事業の実施期間中はいつでも利用可能で、毎日の利用日等の登録は不要です。登校時には活動場所の受付で見守り員に名前と学年を伝える必要があります。欠席時の連絡はソースに記載が見られません。
横浜市では、保護者が子どもより早く出勤しなければならない状況に対応するため、小学校の始業前に学校内に居場所を提供し、保護者と子どもの不安解消を目指しています。事業の運営は公益財団法人横浜市シルバー人材センターに委託しています。
今後の展望
今回ご紹介した豊島区、志木市、品川区、豊中市、横浜市の事例を見ると、「小1の壁」に対する問題意識が全国的に高まり、多くの自治体で具体的な対策が検討・実施されていることがわかります。特に、小学校の施設を活用して朝の時間をサポートするというのは、子どもたちにとっても慣れた環境で過ごせるというメリットがあるのではないでしょうか。
以前のブログでも触れましたが、枚方市でも子育て世代からは時間に関する悩みが大きく、朝の預かり事業へのニーズがあるのではないか感じています。
関連情報
以前のブログ記事でも触れたように、これまでおむつの持ち帰りの廃止や手ぶら登園、一時預かりの利用促進など時間を切り口とした様々な子育て支援に関する提案をしてまいりました。